YouTube、広告ブロッカー利用者を新しい手法で困らせる
YouTubeが、ユーザーに広告ブロッカーの使用を思いとどまらせるための新たな“工夫”を始めたようです。(2026年2月)
しかも今回は、広告そのもの動画再生とは関係のない方法です。
複数の報告によると、Google傘下のYouTubeは、広告ブロッカーを有効にしているユーザーに対して、コメント欄や動画の説明欄を表示しないようにしているとのことです。
2023年から続く長い攻防が、新たな局面に入ったようです。
AdGuardユーザーの皆様から寄せられた報告や、Redditなど他のプラットフォームで確認されている投稿によると、YouTubeは、少なくとも一部の広告ブロッカー利用者、特にPCユーザーに対して、すべての動画でコメント欄と動画説明欄を無効化しているようです。現時点では、YouTubeが一部のユーザーを対象にこの手法をテストしているようで、全員がこの問題に遭遇しているわけではありません。しかし、話題になるには十分な数のユーザーが影響を受けているようです。
では、一体何が起きているのでしょうか?そして、広告ブロッカー、とりわけAdGuardは、この問題にどう対応するのでしょうか?
広告ブロッカー利用者に対する今回の妨害手法そのものは新しいかもしれません。しかし、YouTubeが広告ブロッカーに対して課題を突きつけ、広告ブロッカー側がフィルタリスト(広告ブロッカーに「何をブロックすべきか」を伝えるルールのセット)を更新することでそれを乗り越えてきたのは、今回が初めてではありません。これまでの問題と同様に、修正はすでに配信済みです。更新されたフィルタがユーザーの環境に届けば、この問題は解消されるはずです。ただし、まだ全員がその更新を受け取れているとは限りません。そして、ここが今回の大きな違いです。
修正が作成されてから実際にユーザーへ届けられるまでのギャップは、これまでになく大きくなっています。その原因は、Googleの新しい拡張機能ルールにあります。なぜこの遅延がこれまで以上に重要になっているのかを理解するには、Manifest V3について説明する必要があります。
Manifest V3が大きな役割を果たす理由
Manifest V3、略してMV3は、Google ChromeおよびChromiumエンジンをベースにした他のブラウザ(例えばEdgeやOperaなど)向け拡張機能の新しい仕様・規格です。
最初に発表されたのは2018年で、その後数年にわたって改良が重ねられ、2023年からユーザーへの展開が始まりました。2025年7月までには、旧標準であるManifest V2は完全に廃止され、ChromeではManifest V2上で動作するブラウザ拡張機能は利用できなくなりました。
では、Manifest V3(MV3)はどのように今回の件に関連するのしょうか。
MV3の影響を受けたブラウザ拡張機能の中でも、広告ブロッカーはおそらく最も大きな打撃を受けたでしょう。
MV3環境では、Chrome上の拡張機能ができること・できないことが大きく変わり、Manifest V2と比べて権限の範囲が大幅に制限されました。
特に大きな変更の一つが、webRequest APIがdeclarativeNetRequest APIに置き換えられたことです。どちらのAPIも拡張機能が不要なコンテンツをブロックすることを可能にしますが、declarativeNetRequest APIははるかに制限が厳しい仕組みです。このAPIでは、拡張機能がコンテンツをブロックするために使用できるルールの一覧を事前に定義しておき、それらのルールが静的に適用されます。
一方、webRequest APIでは、拡張機能がネットワークリクエストを動的に傍受・変更できたため、はるかに高い柔軟性がありました。つまりMV3環境下では、広告ブロッカーはリクエストにリアルタイムで対応できなくなり、フィルタリストの更新や新しいコンテンツへの適応能力が大幅に制限されます。その結果、特定の広告やトラッカーのブロックが遅くなったり、効果が下がったりする可能性があります。システムが新しいパターンに反応できるのは、フィルタが拡張機能全体の審査プロセスを経て更新された後になるからです。
この変更は、ユーザーのプライバシーを向上させるために行われたのであり、公平に言えば、その目的は達成されています。権限が少なくなったことで、悪意のあるブラウザ拡張機能がブラウザやシステムに実害を与える可能性は低くなりました。
しかし、その反面、多くの拡張機能、とりわけ広告ブロッカーは、以前よりも力を削がれることになりました。AdGuardでは、AdGuard ブラウザ拡張機能のMV3対応版を、MV2版と同等のレベルに保つためだけでも、多くの労力と工夫を注ぐ必要がありました。それでもなお、一般的な広告ブロッカー利用者にとってはすぐには見えない問題がさらに存在します。
例えば、今回の問題に非常に近い点として、MV3環境下の広告ブロック拡張機能は、以前のように自由にフィルタを更新することができません。MV3では、フィルタは拡張機能自体に事前に組み込まれているため、フィルタ更新は拡張機能全体のアップデートを通じてのみ配信できます。そして拡張機能を更新するには、本格的な審査プロセスを通過する必要があります。つまり、YouTubeのような人気サイトで何かが壊れた場合、ユーザーは数日間、解決策を受け取れないままになる可能性があるのです。
以前は、私たちが考案した回避策として、「AdGuard 臨時修正フィルタ」というものがありました。これは、一部のルールを「高速アップデート枠」に乗せるための仕組みでした。しかしGoogleは2025年初頭、あらゆるリモートコード実行を禁止したことで、この可能性を封じました。このポリシーの意図自体は良いものでした。潜在的な攻撃者が悪意のあるスクリプトやリモートでホストされたコードを注入するリスクを大きく減らせるからです。しかし、ポリシーの文言が非常に広く、広告ブロックルールでさえこれらの制限に該当し得るものになっていました。
そこで私たちは、ユーザーのフィルタリングルールを可能な限り新鮮に保つため、フィルタルールの更新をユーザーの環境に届ける新たな方法を探す必要がありました。そこで登場するのが、Chromeの迅速審査プロセスです。これにより、開発者は拡張機能全体の審査を待たずに、より頻繁にフィルタを更新できます。ただし、この方法が適用されるのは、Googleが「安全」とみなすルールの変更に限られます。AdGuardでは、そのようなルールを含む自動拡張機能アップデートを数時間ごとに配信しています。一方で、このカテゴリに該当しないルールを変更する場合、ブラウザ拡張機能は通常の本格的な審査プロセスを通過しなければなりません。この審査には長い時間がかかることがあり、最大で1週間、場合によってはそれ以上かかることもあります。残念ながら、今回取り上げているYouTubeの問題に対処するために必要な修正は、迅速審査ルートでは配信できません。そのため、拡張機能が長い審査プロセスを通過するまでは、Chromeユーザーはその修正を利用できないことになります。
他のブラウザではどうなるのか?
Chromiumを使用しておらず、したがってManifest V3の下で動作していないブラウザは、かなり限られています。最も有名なのは、もちろんMozilla Firefoxです。FirefoxはGeckoという独自のブラウザエンジンを使用しています。Mozillaは仕様としてのManifest V3をサポートしていますが、Manifest V2のサポートも廃止していません。そのため、Firefox上の広告ブロッカーは強力なブロックAPIを引き続き使用できます。これにより、拡張機能とは独立してフィルタを自動更新することなどが可能です。FirefoxユーザーからYouTubeに関する報告が比較的少ないのは、必要な修正が自動フィルタ更新によってすでに届いている可能性が高いためかもしれません。
Braveブラウザのような、やや特殊なケースもあります。BraveはChromiumベースであるため、Manifest V3とその制限は完全に適用されます。しかしBraveには、「Shields」と呼ばれる独自の内蔵広告ブロック機能があります。Braveは、ブラウザのアップデートを必要とせずにShieldsのフィルタリストを自動更新します。ただし、BraveはデフォルトではAdGuardのフィルタリストを使用していません。そのため、手動で追加していない限り、YouTubeのコメント欄や説明欄に関する問題が解決されるかどうかについて、私たちからは判断できません。
今回の件はシステム全体問題の一部である
今回の状況は、広告ブロッカーの世界におけるより大きな問題を浮き彫りにしています。それは、ほとんどのブラウザ拡張機能のエコシステムを支配しているGoogleのような大手プラットフォームが課す、システム上の制限です。一見すると単純なバグで、すぐに修正できそうに見えるかもしれません。しかし実際には、はるかに複雑です。Manifest V3によって導入され、Chrome ウェブストアの審査プロセスを通じて強制される制限は、ユーザーと開発者の双方にとって柔軟性を低下させる、より大きな流れの一部です。
AdGuardの共同創業者兼CTOであるAndrey Meshkovは、次のように述べています:
Chromiumにおける最近のManifest V3変更は、Chromiumベースのブラウザで広告ブロッカーができることを大きく制限しました。今のところ、ユーザーの皆様はその影響をあまり感じていないかもしれません。私たちAdGuardはChromiumチームと協力し、私たちのニーズの大部分を満たせる形でAPIの仕組みに影響することができたからです。しかし、損なわれたのは、それをさらに改善していく能力です。今では変更を実装するのにはるかに長い時間がかかります。MV3で新機能を導入するには、何年もかかる可能性があります。
YouTubeの問題修正の遅れに対するユーザーの不満は、理解できるものであり、正当なものです。ただし、このフィルタ更新の遅れはAdGuard側のバグや見落としによるものではありません。むしろ、アップデートの配信方法に組み込まれた、「仕様上の」制限によるものです。Manifest V3によって、Googleはセキュリティとプライバシーを優先していることを示しましたが、その一方で、広告ブロッカーのような人気ツールの機能を制限し、現在YouTubeで起きているような問題に対して、ユーザーがすぐに修正を受け取れない状況を生み出しています。
AdGuardをはじめとする広告ブロッカーは、MV3の制限の中でも革新を続けています。しかし、今回の問題が単発のものではないことは明らかです。これは、ユーザーのニーズとプラットフォームのポリシーとの間で続く、より大きなせめぎ合いの一部です。MV3への移行以降、このような問題はより頻繁に発生するようになりました。そしてYouTubeのような主要プラットフォームで問題が起きると、ユーザーのプライバシーとセキュリティを守ることと、カスタマイズ可能なWeb体験を認めることとの間にある、より深い対立が浮き彫りになります。
今回のようなフィルタ更新の遅延に対し、広告ブロッカーのユーザーができる対策は以下のとおりです:
- AdGuard for Windows や AdGuard for Mac のような、スタンドアロン型システムレベル広告ブロッカーを使用する
これらはデバイス全体の通信をフィルタリングし、フィルタ更新においてブラウザに依存しません。さらに、システムレベルのブロッカーは、ブラウザ拡張機能を超える機能を備えています。 - 別のブラウザに切り替える
Mozilla Firefoxやその他のGeckoベースのブラウザはManifest V3に依存しておらず、その制限の影響を受けません。一方、BraveやMullvadのようなブラウザは、広告やトラッカーから保護する内蔵機能を提供しています。






