広告パフォーマンス追跡がFirefoxの初期設定で有効に
プライバシーを最優先していることを常に自負してきたMozillaは、広告主が広告のパフォーマンスを追跡できるようにするFirefoxのデータ収集機能に対し、ユーザーからの反発に直面している。
この機能はPrivacy-Preserving Attribution(PPA)と名付けられており、Firefoxブラウザの最新バージョンでは最初から有効になっている。
Mozillaはこの新機能を発表する際、「クロスサイトトラッキングに代わる非侵襲的なものである」と説明し、「トラッキングは、あなたのオンライン上での行動に関する詳細な情報を企業に伝えるため、プライバシーにとって最悪だ」と述べた。
クロスサイトトラッキングは長い間、サードパーティCookieに基づくものであった。(Mozillaは、2019年から、FirefoxにおいてデフォルトでサードパーティCookieをブロックしてきた。)
しかし、Microsoft EdgeやGoogle Chromeでも、サードパーティCookieがようやく段階的に廃止されつつある今、ブラウザのメーカーらはCookieの代替を探している。
Google ChromeのProtected Audience APIとMicrosoft EdgeのAd Selection APIという代替案は、ユーザーのプライバシーに関しては、最低でもフールプルーフでないようなため、AdGuard は現在、その代替技術の両方をブロックしている。
このような背景から、Mozillaが「PPA」というプライベートトラッキングの代替手段を発表したことは、他社ブラウザのように広告主を満足させながら、少しでもユーザーに配慮しようとしているように見えるかもしれない。
しかし、Mozilla自身は、自分たちはそこら辺のテック企業ではない(つまり、利益のためにプライバシーを犠牲にしていない)としている。
「Mozilla は一般的なテクノロジー企業とは異なります。製品は利益よりも人とそのプライバシーを優先します。インターネットを万人にとってより健全で幸せな場とすることを目的に活動しています。」
と、Mozillaのメインページに大きく表示されているミッション・ステートメントは主張している。
では、Mozillaも他の企業と同じになってしまったのだろうか?
早合点せずに、今回の新しいトラッキング代替技術を詳しく見てみましょう。
メタとの協力が産んだ技術
今回の新機能「PPA」は、Mozillaが広告測定企業Anonymを買収してから1ヶ月も経たないうちに展開された。この動きは当時も世間を驚かせ、AdGuardを含む一部の人々は、この動きは懸念の理由であり、滑りやすい坂道を下る可能性があると見ていた。ターゲット広告のためにデータ共有を促進する技術を受け入れることは、常にプライバシーを優先するというMozillaの使命と矛盾するように見えるからだ。
GitHubのページで、Mozillaは「Metaや他のアクターと一緒にブラウザ内アトリビューションAPIの定義に取り組んできた」と述べ、現在まさにFirefoxで行われているような「提案の軽量版」の試運用を行う予定であるとしている。
「私たちの望みは、優れたアトリビューション・ソリューションを開発すれば、トラッキングのような好ましくない行為に対し、真の代替案を提供できるようになることです。このアプローチが、広告主らが求めている情報を提供できるかどうかを、私たちは現在テストしています。」
では、この技術の中身はどうなっているのでしょうか?
Mozillaは新しいAPIの詳細な技術的説明をこちらのリンク先で公開しています。
以下に、それをより簡単に説明いたします。
一言で言えば、Firefoxはアトリビュートコンバージョン(あるサイトで表示された広告が別のサイトでコンバージョン(購入など)につながること)をトラッキングします。
以前の仕組みでは、このプロセスは、これらのイベントをリンクするためにクロスサイトトラッキングに依存します。
しかし、今回のPPAは、ブラウザ自身がこのプロセスを管理するようにし、ユーザーのプライバシーを保護すると、Mozillaは主張している。
インプレッション登録(ユーザーが広告を見たりクリックしたりすること)の際、Firefoxは基本情報を書き込み専用のリポジトリに保存する。これには、広告の識別子と、ユーザーが広告を閲覧したかクリックしたかが含まれる。
コンバージョンが発生すると、システムは保存されたインプレッションに基づいてこのデータを集計します。コンバージョンが発生したウェブサイトは、広告の識別子とインタラクションの種類(閲覧またはクリック)を使って、関連するインプレッションにアクセスできる。
データが集約され、特定のユーザーの行動を特定できないようにノイズが加えられているため、個々のユーザーのプライバシーは保護されていると、Mozillaは主張している。
Mozilla:「プライバシー面での損失は広告主にとっての「莫大な価値」によって相殺される」
この発言には当然、同意しない人もいます。
デジタル著作権擁護者のJonah Aragon氏は、Mozillaの新機能には「多くの問題」があると指摘している。
彼が最も問題視しているのは、広告主にユーザーデータを収集する権利があるという誤った信念が、今回の新機能に反映されているということだ。
「広告業界専用に作られたソフトウェアを組み込むことによって、Mozillaは、広告業界があなたのデータを収集し、インターネット上であなたを追跡することに対して、ユーザー自身の利益を含む他のすべての当事者よりも正当な利益を有すると誤って主張している。」
Mozillaがあらゆる企業のうちMetaと協力しているという事実だけでも、この手法がプライバシーを保護するものであるかどうか少し疑わしく思えるが、Mozilla自身はそれをどのように正当化しているのだろうか?
MozillaはGitHubページで、このようなトラッキングスキームを実装することは、ユーザーの情報が利用され、プライバシーに打撃を与えることを意味することを認めている。
しかし、それと同時に、アトリビューションから広告主が得る「膨大な価値」によって、そのようなプライバシー損失は正当化できると、Mozillaは主張している。
彼らの大きな売りは、他の資金調達モデルでは対応できないということだ。
しかし私たちは、広告主導モデルがオンライン・コンテンツやサービスを維持するための唯一の実行可能な選択肢であるという仮定には同意しません。
より倫理的でプライバシーを尊重するアプローチが存在すると信じています。
そして、プライバシーの擁護者を自認する Mozilla は、広告主の利益に応えようとするのではなく、これらの選択肢の探求をリードすべきだと思います。
なぜ初期設定でオンにするのか?
一方、Mozillaのユーザーフォーラムには、今回の新機能に対する苦情が殺到している。
批判は二つのことに集中している。
第一に、Mozillaがこの機能を実装したこと、第二に、遠隔測定を有効にしているユーザーに対してデフォルトでオンにされていることだ。
「この機能を Firefox に組み込むこと、特に初期設定でオンにすることは、企業がオンラインでユーザーを追跡する権利を持っているという前提から始まります。Firefoxが自分をプライバシー保護の代替ブラウザであると宣伝しておきながら、この機能を統合してしまっていることに非常に不満です」と、多くのコメントのうちの1つが述べている。
批判が高まっているにもかかわらず、Mozillaはその立場を堅持しており、この機能を元に戻したり、オプトイン方式にしたりする計画はないと表明している。
MozillaのエンジニアであるBas Schouten氏は、この機能をオプトインにするには、その価値をユーザーに説明する必要があり、それは難しすぎるだろうと主張した。
また、Schouten氏は、オプトアウトのオプションは簡単に発見できると主張した。
オプトアウトオプションが実際に見つけやすいかどうかは議論の余地があるが、ユーザーが新しいAPIに関する情報を理解できる可能性は低く、だからこそ強制した方が良いという主張は見苦しい。
PPAを無効にする方法
今のところ、このPPAという新機能はFirefoxのブラウザメニューで無効にすることができます。
そこで「設定」を選択し、「プライバシーとセキュリティ」パネルで「ウェブサイト広告設定」セクションを見つけます。
「ウェブサイトがプライバシーを保護した広告計測を行うことを許可する」というボックスのチェックを外します。
AdGuard での対応
AdGuard は、ユーザーのプライバシーを確実に保護するための予防措置として、この新APIのブロックに対応しました。
「AdGuard 追跡防止フィルタ」が有効になっているアプリおよび拡張機能は、PPAをブロックします。