ロボット掃除機が撮ったトイレ中の女性の写真がネットに流出
技術オタクでなくても、家にはいくつかの「スマート」デバイスはあるもの。家事の強い味方である掃除機も、その一つですよね。
ロボット掃除機は、床を掃除し、ホコリやペットの毛を吸い取るが…あなたのデータ・個人情報も吸い取ることもできる。
ほとんどの掃除機のプライバシーポリシーには、ユーザーが同意すれば、メーカーは製品やサービスを向上させるためにユーザーの情報を収集することができると書かれています。
しかし、自分の掃除機が犬のフンをうまくかわしたり、電線・ケーブルを避けたり、ベッドの下にはさまれないようにしたりといったワザを披露してほしくないと思う人はいないでしょう。
そして、「同意する」をクリックする前に、プライバシーポリシーを読む人は多いでしょうか?
それに、公平なアルゴリズムが収集したデータを処理するか、最低でもこのデータはメーカーに残り、インターネット上に流出することはないだろうという印象を受けがちな人も少なくありません。
iSpy:ロボット掃除機が親密な写真を流出した件
しかし、この印象は正しいとは限らない。
AIが人間に取って代わる方向にあるのは間違いないが、まだまだの段階にある。
MIT Technology Reviewは先月、ロボット掃除機の大手メーカーであるiRobot社が、同社のロボット「ルンバj7シリーズ」の開発版が収集した生データをふるい分けしてラベル付けするために第三者の契約者を雇ったことを明らかにした。
アイロボット社はデータをScale AIというスタートアップ企業と共有し、Scale AIはヴェネズエラの独立した下請け業者にデータを共有、その業者はさらに、FacebookやDiscordでデータを共有したというのだ。
これらの低賃金労働者は、ルンバのカメラが捉えた家具やその他の物体を識別してラベル付けすることを課されていた。
MIT Technology ReviewがプライベートSNSグループから入手した15枚の画像の大半は、出入り口、棚、キッチンキャビネット、照明、カウンタートップなど、ごく無害なものだった。
しかし、いくつかの写真は、もっと不利なものだった。
さまざまな角度から撮影された一連の画像には、便座に座る女性が写っており、いくつかの画像には彼女の顔がはっきりと写っていた。
また、床に寝転んでカメラを直視している子供が写っており、その顔にもぼかし等が入っていなかった。
この流出で、責任逃れごっこが始まった。
iRobot社は、Scale AI社が画像の掲載を許可したのが契約違反であると非難した。
Scale AI側は、ベネズエラの労働者が契約に違反していると非難した。
iRobot社が悪い下請け業者の犠牲になったという見方もできる。
確かに、レベル付けしていた者が写真をSNSに投稿するという失態を犯さなければ、何も明るみに出ることはなかっただろう。
しかし、この問題は、プライバシーという概念をあまり理解していないクラウドソーシング労働者たちよりもずっと深いところにある。
技術系企業が私たちからどれだけデータを取得し、それを誰と共有しているかというのが真の問題です。
同意の問題
iRobot社は、不適切な画像を撮影したモデルは店頭販売されておらず、「有償のコレクターと従業員」にのみ配布されたと弁明した。
iRobot社によると、これらの人々は、動画を含む自分のデータがAIのトレーニングに使用されることに同意していたという。
しかし、この人たちが自分の親密なデータが他の人間に見られることを知っていたかどうかは、アイロボット社は言わなかった。
MIT Reviewによると、同意書には、データが「サービスプロバイダー」と共有されることしか書かれていなかったという。
iRobot社は、同社の掃除機が収集した視覚データ(合計200万枚以上)を、Scale AIだけでなく複数の契約業者と共有していたことを認めた。
iRobotによると、データを渡す前に、ユーザーが裸であるなど危うい画像をフィルタリングしているという。
ただし、トイレにいる女性の画像が削除されなかった理由については、同社は明言していない。
お使いの掃除機はあなたについて何を知っているのか
iRobot社は、一般消費者をスパイすることはないと主張している。
しかし、技術的には、何も気づかないユーザーの家庭から正確な情報を大量に収集することを止めるものはない。
ロボット掃除機はまず、初掃除の際に家中の部屋を移動しながら間取りや形状を把握して詳細なマップを作るとき、このデータを収集します。
このマップは、ロボットが部屋のレイアウトを理解するのに役立ち、同じ場所を二度掃除したり、角にぶつかったりしないようにします。
マッピング機能(マップ作成技術)が高度であればあるほど、マップの精度は高くなり、掃除の効率も上がります。
iRobotのj7の場合、前面に搭載されたAI搭載カメラによって、このデータを収集することができます。このAI搭載カメラは、安価なモデルが採用しているジャイロスコープと加速度計を使ったマッピング技術よりもさらに上のレベルです。
カメラを搭載することで、ロボット掃除機は“盲目”のライバルモデルに対して優位に立てるが、何が起こっているかを見て写真を撮ることができるようになるため、明らかなプライバシーリスクも伴います。
このように、iRobot社のルンバj7+モデルは、ペットの排泄物やケーブルを自分で認識して写真を撮り、ユーザーがオプトインすればスマートフォンのアプリでそれを共有することができる。
また、iRobot社とデータを共有することも可能で、この場合、画像は暗号化されて同社に送られ、人間の従業員がそれを検証することになる。
人が写っている画像に関しては、掃除機のソフトウェアは、人間や人間の写真が視界に入ると自動的にカメラを停止するようになっている。しかし、MIT Reviewの報告書からわかるように、この安全装置が常に機能するとは限らない。
Photo: YoonJae Baik/Unsplash
既存の技術によって、掃除機ロボットは、広告主などの第三者にとって有用な、あなたの生活に関する貴重な洞察をたくさん収集することができます。
家の広さ、寝室が2部屋か1部屋か、ペットがそこらじゅうでウンチをしているか、といった情報だけでなはありません。
掃除機は、あなたの日常生活に関する情報を得ることもできます。ロボット掃除機用のクラウドベースのOSであるiRobot OSを使えば、外出時に自動的に掃除を始め、帰宅時に止めるように設定することも可能です。
また、Amazon Alexa、Apple Siri、Google Assistantなどの音声アシスタントとペアリングすることで、音声コマンドに反応するロボットとなります。
iRobot OSはクラウドベースなので、これらの情報はすべて、不正な従業員がアクセスしたり、法執行機関などの第三者と共有されたりする可能性があります。
iRobot社のCEOであるColin Angle氏は、5月にVerge誌に対して、j7の掃除機はこれまでに人々の家の中にある4300万以上の物を検知し、80個の物を識別して回避するように学習したと述べている。
これはもう、メーカーがデータ・個人情報の宝庫の上に座っているようなことを意味します。
問題は、その宝庫がどんな時・誰のために開かれるか、ということですね。
AmazonとiRobot オンラインプライバシーにとって地獄のコンボか
アイロボット社がナビゲーション・システムを改良し、クラウドベースのソフトウェアを刷新したところ、Amazon社の興味をかき立てたのは偶然ではないだろう。
今年8月、両社は合併契約に調印し、それによると、AmazonはiRobot社に17億ドルを支払うことになる。
この買収は、まだ規制当局の承認が必要で、プライバシーに関する騒動を引き起こした。
AmazonとiRobot社のデータが混ざり合う可能性は「消費者のプライバシーを危険にさらす」として、Electronic Frontier Foundation(電子フロンティア財団)を含む多くのデータ・プライバシー団体は、米国の規制当局にこの買収を中止するよう要請した。
「iRobotのデバイスを、すでに侵入的であるAmazonホームシステムにリンクさせることは、より多くの接続されたホームデバイスからのデータ収集を促し、私たちの習慣や健康についてのプライベートな詳細を含む可能性があるため人権と安全を危険にさらす」と、要請レターに書いてあります。
実際、iRobotはAmazonに決まるずっと前から、テック大手とのデータ共有のアイデアを温めていた。
2017年、iRobotのCEO Angle氏は、同社が顧客の同意を得た上で、将来的にAmazon、Apple、Googleといった企業と顧客の家のマップを無料で共有する可能性があると発言している。
AmazonのiRobot買収の懸案は、より大きく、かなり心配となる傾向の一部に過ぎない。
昨年、Googleはフィットネス・トラッキング会社のFitbitを21億ドルで買収し、似たようなプライバシー関連懸念を呼び起こした。
最終的に、この買収案件が欧州委員会の審査を通過できるようにするためGoogle社は、Fitibitのデータを別途保管し、最低10年の間はGoogleの広告に使用しないことに合意した。
この件に関してグーグルを信用すべきかどうかはあなた次第ですが、歴史が示すように、プライバシーに関するGoogleの約束は定かではない。
センサーは良くなり、プライバシー問題は悪化
カメラベースの掃除機ロボットと同時に、目に見えない回転式レーザーを使って、部屋の広さや障害物に関する詳細な情報を得るレーザーベースのロボットもある。
この最先端技術は、Light Detection and Ranging(光検出と測距)の略で「LiDAR」と呼ばれ、掃除機ナビゲーションのゴールドスタンダードと言われています。
レーザーベースのロボットは、カメラベースのロボットよりも精度が高く、一般的に速度も速い傾向があります。
また、カメラベースモデルほどの多くの視覚データを取得することはできませんが、プライバシーに対する脅威になっています。
研究者は、LIDARを使用するデバイスがハッキングされ、家庭から音声データを収集することができることを発見しています。
物理的なマイクが設置されていないにもかかわらず、これらのロボット掃除機は、「会話をスパイし、個人情報を明らかにする可能性がある」と、という結論をメリーランド大学とシンガポールの研究者たちは出しています。
「Spying with Your Robot Vacuum Cleaner: Eavesdropping via Lidar Sensors」という研究で、研究者はXiaomi Roborock掃除機を使って90%以上の精度で会話と音楽の録音に成功したと述べられています。
Photo: Elena Mozhvilo/ Unsplash
掃除の精度や効率に対する要求が高まるにつれ、センサーの性能は時間とともに向上していくと考えてよいでしょう。
掃除機がコードにつまずいたり、犬の食器にぶつかったり、ペットの排泄物をまき散らしたりすることを望む人はいないでしょう。
つまり、掃除機が家庭からデータを収集する能力もますます高まっていくということです。
また、より精度を高めるために、天井や前面などに複数のカメラを同時に設置したり、レーザーとカメラの両方を使ったナビゲーションなども検討され、より多くのデータを収集できるようになる可能性があります。
リスクと便利さのバランス
インターネットに接続された機器は基本的に、プライバシーに対する深刻な脅威であり、ロボット掃除機も例外ではありません。
ところが、音声アシスタントやスマートドアベルのように固定された機器とは異なり、掃除機はさらに動くこともでき、場合によっては家の中の写真を撮ることもできます。
そのため、プライバシー保護の観点からは、より危険な存在と言えます。
メーカーが「ユーザーの機密情報が漏れないように万全を期している」と言っても、ルンバのケースでも見られるように、安全対策が失敗することもあります。
そのため、プライバシー・セキュリティと利便性のどちらを重視するかという選択になることが多いのです。
最もプライバシーに配慮した選択肢は、スマートホームを「ダムダウン」させ、ロボット掃除機を昔ながらのコード付き掃除機に置き換えることでしょう。手動でソケットに差し込み、床を引きずる必要があるもの。
プライバシーに配慮し、コスト面にも優れているとはいえ、この方法では労力や時間を節約することはできません。
なので、利便性のためにプライバシーやセキュリティの一部を犠牲にすることをいとわないのであれば、その場合のリスクを認識し、いくつかの基本的なルールを守る必要があります。
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販売後サポートがある信頼できるベンダーを選択することで、潜在的な見落としによるデータリスクを軽減することができます。
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プライバシーポリシーとサービス利用規約(ToS)を読み、プライバシー設定を慎重に確認しましょう。ある程度のデータ共有に同意しないと機能しない機能もあるが、デバイスが機能するために必要最低限以上のデータ共有には同意しないようにしましょう。
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広告サーバーやトラッキングサイトへのアクセスをブロックするために、通常DNSフィルタリングを使用することをお勧めしています。ただし、データ収集がデバイスの中核機能の一部である場合、そのデバイスの動作を損なうことになりますので要注意です。これは、掃除機だけでなく、スマートスピーカーなど他のIoTデバイスにも当てはまります。